醤油の香りに包まれて育った少年時代 Hiroaki Katayama
片山 広明

  片山が育ったのは(株)キッコーマンの城下町、千葉県野田市。しかし片山の演奏は「うすくち」ではない。
   
高校ブラス・バンドから大学ジャズ研へ
  高校時代、ブラバンでサックス(当時はアルト)を手にする。「高校生でかなり吹けるようになった」と豪語する片山にとって、大学(國学院)のジャズ研はものたりないものだった。「大学生になってブラバンなんかやってらんねーよ」とばかりに、沖至(tp)のグループでのフリー・ジャズに進み、これが彼の将来を大きく運命づけた。この頃、テナー・サックスに転身。
   
フリー・ジャズとディスコ・バンド
  沖至のグループを経て、藤川義明(as)、翠川敬基(cello)のナウ・ミュージック・アンサンブルに加入し、フリー・ジャズ道を驀進。一方で、当時はやっていたディスコやキャバレーでソウル・グループ活動を行なう。このとき、当然のように髪にパーマが入った(後に触れる生活向上委員会でもパーマ頭であった)。キャバレーの演奏で林栄一ら、後の同志と出会う。
   
生活向上委員会大管弦楽団
  八王子のライヴ・ハウス「アローン」を拠点に、70年代後半、生活向上委員会大管弦楽団を結成。梅津和時(as)、原田依幸(p)、早川岳晴(b)、夭逝した板谷博(tb)、篠田昌己(as)など、自由な発想の個性派が集まるビッグ・バンドである。全方位的な音楽への関心を反映したうえに、演劇的要素を取り込み、コスチュームはアース・ウィンド&ファイアでキメた。それは「暗い」フリー・ジャズに決別した世代の登場でもあった。この頃までには、国立周辺で仲間となったRCサクセションの忌野清志郎(vo)、仲井戸麗市(g)との共演が始まり、現在まで続くことになる。
   
欧州を震撼させたDUB
  生活向上委員会の解散後、同僚だった梅津和時、早川岳晴、菊池隆(ds)とどくとる梅津バンド(後にDUBと改名)を結成。ドイツのメールス・ジャズ祭出演をきっかけとして、ヨーロッパの聴衆による絶賛の輪が広まる。ヨーロッパへは数次にわたって公演旅行を行ない、当地のレーベルでアルバムも制作。最もアクチュアルな日本のジャズ・グループとして名を馳せる。
   
ソロ・アーティストとして幅広いジャンルで活躍
  DUBの発展的解散を経て、片山はソロ・アーティストとして、ジャズ、ロック、ブルースなどジャンルを超越した活動に入る。RCサクセションを中心とするロック・フィールドでの活動のかたわら、幾多のジャズ・セッションでそのストロング・テナーの存在を知らしめる。自己のグループでの活動が増えるのもこの80年代のことである。
   
ソロと並行してde-ga-show結成
  盟友・林栄一との長年の計画を実現したバンド、de-ga-showを1994年に結成。これは、双頭アルバムを制作するために集まったメンバーが恒常的なバンドに発展したものであった。ほどなく片山は、不破大輔が主宰する渋さ知らズに参加、いつのまにか中心メンバーの一角に居座るようになり、現在にいたる。
   
病からの生還
  1996年末、片山は病に倒れる。二十数年間にわたっていたぶられ続けていた肝臓が、ついに蹂躙の毎日に耐えられなくなったのであった。一時は「危篤」の誤報が流れたほどだったが、数週間で見事に回復し、その基礎体力に誰もが感嘆する。が、現在も酒はご法度。みなさん、決して杯を勧めたりしないでください。
   
"Instant Groove"、そしてCO2
  大病から復帰した片山は、ライヴ・シリーズ "Instant Groove On Sunday"をすぐさま開始した。これは、月に一度(日曜日)、片山の新旧の友人を招いて行なうセッションで、現在も継続している。1997年2月にスタートしたこのセッション10回から5曲を厳選してCD化したのが "Instant Groove"である。この間、de-ga-showと並行して、片山と林のコンビが率いる新しいバンドの構想が実現化していった。それがニュー・グループCO2である。片山、林に加え、加藤崇之(g)、早川岳晴(b)、芳垣安洋(ds)という各楽器のベスト・プレイヤー5人が集まったCO2は1998年2月にデビュー。この、90年代最高の、そして21世紀日本ジャズの幕を開けるであろうスーパーグループは、98年夏にデビュー・アルバムを発表する予定である。



"Instant Groove"参加アーティスト(収録順)


林栄一 : as   1980年、山下洋輔トリオにプラス林栄一として加入。MAZURU、de-ga-show、サックス・ソロ、若手を集めたナーダムでの活動やスタンダード・アルバム『モナリザ』の発表など、サックスの可能性を追求する第一人者。
       
宮野裕司 : as   片山、林とはキャバレー・バンド時代からの古い盟友。日本にあっては極めて珍しいクール・スタイルのアルトを身上とする個性派である。1997年、フェビアン・レザ・パネとのデュオ・アルバムを発表し、絶賛される。
       
梅津和時 : as, b-cl   グループ、集団疎開の活動に前後して渡米し、70年代ロフト・ジャズの渦中に身を投じる。片山とともに生活向上委員会、DUBで活動後は、数々の編成のバンドを率いるほか、世界を股にかけて様々なジャンルで活躍。作品多数。
       
早川岳晴 : b   生活向上委員会、DUB、ジョン・ゾーン・ユニット、等で活動。SALT、HAYAKAWAでリーダー、ベーシストとして自己の世界を強烈に表現している。仲井戸麗市バンド等、ロックでも活躍。アルバムに『SALT』『HAYAKAWA』ほか。
       
芳垣安洋 : ds   関西をベースにALTERED STATES、SIGHTS等で活動。現在、梅津和時、不破大輔、大島保克、レナード衛藤ほか、様々なジャンルのミュージシャンと活動中。ブラス・バンドのオルケスタ・ボレを率い、大島保克との共演アルバムを97年に発表。
       
加藤崇之 : g   ジョージ大塚、鈴木勲などのグループに参加の後、西荻窪・アケタの店を拠点にフリーな音楽を演奏するようになる。ジャズ・ギターの伝統の上に独自な世界を展開し、熱い注目を集めている。アルバムに『ギター・ミュージック』ほか。
       
勝井裕二 : vln   片山とは渋さ知らズで出会い、以降セッションをともにしている。ロック・フィールドで活躍し、レーベルも主宰している。
       
不破大輔 : b   川下直広、大沼史朗とのフェダインでの活動と並行して、ビッグ・バンド渋さ知らズを率い、地底レコードを拠点に多数の作品を発表するなど、八面六臂の活躍を展開中。5月には渋さ知らズのメンバーとヨーロッパ各国をツアーする。
       
大沼史朗 : ds   フェダイン、渋さ知らズを切れ味鋭いドラミングで支えるドラマー。竹内直とのデュオ活動も繰り広げている。フェダイン、渋さの全アルバムのほか、近藤直司トリオ、川下・不破との共同名義の『マイル・アンド・ハーフ』に参加。
       
石渡明廣 : g   パンゴ、天注組を率い、その後もSALTをはじめとする数々のグループで活動を展開している、日本において最も個性的なギタリストのひとり。現在、自己のグループのほか、渋谷毅オーケストラ等で活動。リーダー作に『マル・ハウス』がある。
       
井野信義 : b   鈴木勲グループを皮切りに、高柳昌行、高瀬アキ、日野元彦、渡辺香津美ほか数多くのグループで活躍、参加アルバムは多数にわたる。リーダー・アルバムのほか、レスター・ボウイとのアルバム『デュエット』がある。
       
つの犬 : ds   吉田哲治、酒井俊ほか、様々なグループに参加してシャープかつパワフルなドラミングが注目された。ロック・フィールドでも活躍するヴァーサタイルな個性の持ち主。最近の参加作に南博のアルバム等がある。
       


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